8/31は全国的にプール潜入の日



 あと12時間ほどでドカンと新学期が始まる。夏休みのうちに宿題をクリアするどころかさらに課題が積みあがってしまって、首が回らないどころかもう今にもギロチンですっぱりばっさりいってしまいそうな自分にとっては死刑宣告に等しい新学期が十三階段の前でおいでおいでと手招きをしているのだ。
 少しくらい現実逃避をしてみたくなるものである。
 自分の学校に行ければよかったのだろうが、あいにくとチャリを飛ばしても2時間かかるし、潜入しようにも意外に頑丈な鍵はボートで鍛えた腕力で殴りつけようともびくともしない。
 そんなわけで、近くの小学校に続く坂道をへいこらと登りながら潜入するための算段をつける。裏口の通用門はめったなことでは閉まらないことは知っていたが、夏休み最終日というのはそのめったなことというのに当てはまりすぎるくらい当てはまる。
 とりあえずまずは正面の正門から職員室を確認。こうこうと灯りがついているかと思ったが、意外や意外。灯りがついている部屋はなかった。これはチャンスだ。
 裏門よりもはるかに上りやすいと評判の正門を乗り越えるとそこは8/31の学校だった。あと12時間であちこちの小学生たちに夢の終わりを告げる鐘は未だ8時47分をさしている。
 誰もいなかった。
 プールの場所はわかっている。とにかく誰にもバレないようにと全力で走った。
 身を隠すものはないし、見つかったら通報は確実だ。晴れて前科持ちの仲間入りで、カツ丼を食うことになるのは間違いない。
 ようやくプールにたどりついた。ぽつんと一本立った灯りが金網フェンスの様子が丸わかりに照らし出しているが、フェンスの上の有刺鉄線がこっちくんなボケェ、と無言で主張している。ひとしきり見上げてみたが上れそうもない。正面突破に望みをかける。
 塩素っぽい臭いのする渡り廊下を抜けて、頑丈な鉄扉で蓋をされた入口に着いた。
 深呼吸をした。
 これから鍵を無理やり外して鉄扉を開けて、さらに中の柵の鍵までこじ開けて柵までのけてプールに入って泳ぐのだ。
 冷や汗がつたった。
 引き返そうかという考えを意地だけで打ち消すと鍵を排除にかかる。ピッキングのやり方は一応知っている。針金とペンチでうねうねとやっているとどうにかこうにか外れそうな予感がしてきた。よしあと一息だがんばれオレと心の中で活を入れたとき、


 サイレンが鳴った。


 自分に関係があるはずはないと思ってはいたがびくりと息が止まる。おそるおそる辺りを見回すが人の姿はない。必死で心を落ち着けようとしたがサイレンの音はどんどん迫ってきて、それだけで粘ろうという意地なんか全部UFOの彼方へ吹き飛んでしまって、荷物を乱暴に袋に放り込むと全速力で逃げ出した。
 正門を3秒で乗り越えると逆心臓破りの坂を越えて川沿いの裏道を抜けてアベックがゆさゆさ車を揺らしてた田んぼの道も抜け、一番近いコンビニまで走るとようやく一息つけた。
 意外と、気持ちよかった。




えーと、8/31ということで「イリヤの空、UFOの夏」の浅羽よろしくプール潜入の顛末記です。
一部フィクションです。
そんなわけで、楽しい夏休みは過ごせましたか?